Soft Luck ―ファンタが街にやってきた―
「ねえ、母さん」
わたしは話題を変えた。
「なーにー」
「ほしいものない?あさって給料日なの」
母の隣で茶碗をふきながらわたしは言った。
「えっ?お給料もらえるの?」
すっとぼけた言い方をして母は振り向いた。
「そりゃあ、働いていればね」
「すごーい、これから遊んで暮らせるのね私」
「何言ってんの、そんなにもらえないわよ」
「なーんだ、毛皮とかダイヤとかぱーっと脳裏を駆け巡ったのに」
わたしは黙って布巾を母に渡すと、踵を返して自分の部屋に向かった。
台所からうっふっふという母の声が聞こえてきた。
わたしはベッドに突っ伏したまま「はぁーっ」とため息をついた。
そして二日後、母は亡くなった。