Soft Luck ―ファンタが街にやってきた―
時に客は身勝手な文句をいう。
〔ベッドが北向きだった〕
そりゃ気にしない国もあるだろうそんなこと。
〔風呂場にシャワーしかなかった。ベッドの間隔が狭すぎた〕
究極の格安パックで何を期待しているのだろう。
〔エコノミークラスのイスの狭さを何とかしろ〕
それは航空会社に言うか、奮発して上のクラスを買ってほしい。
〔パンフレットの色と現地の空の色が全然違っていた。詐欺だ、金返せ〕
その人は本気で裁判を起こすと言った。
〔何で二時間も前に空港に集合しなければならないんだ。待ち時間が退屈でたまらん〕
添乗員の話では、この客こそが空港どころかすべての集合時間に遅れてきたらしい。帰国日などは空港内で呼び出しをかけられたあげく旅客機の離陸時間の3分前に滑り込んで涼しい顔をしていたそうだ。
ひどいのになると
〔女が好みのタイプでなかった上に、俺が寝ている間に財布から金取って逃げやがった。アジアのツアーなぞ勧めやがって、弁償しろ〕
である。
客に逆らってはいけないとはいえ限度がある。何故これだけ文句が言えるのだろう。
いろいろと思い出していたら、急なめまいを感じて倒れてしまった。