Soft Luck ―ファンタが街にやってきた―





3時ちょっと前に銀行に行った経理の小林さんが、笑いながら画用紙にクレヨンで描かれた彼女自身の似顔絵を持って帰ってきた。



「見て見て!誰が描いてくれたと思う?」


小林さんは似顔絵を顔の脇に掲げて言った。



「知らないわよそんなの。でもうまーい!」


誰かが言った。



「ふぁんた君よ。あそこ見て」


小林さんはデパートを指差した。



ちょうど客が途切れたのでみんな窓に寄った。



今度はわたしも見に行った。



デパート横に人だかりができている。ふぁんたがその中でスケッチブックを手に、何か書いているらしいのが見えた。



「デパートでスケッチブックとクレヨン買ってきて絵を描いてたらしいの。あんなして座り込んで描いてるから、似顔絵描きと間違えた人が描いてくれって言ったんだって。それで描いてあげたら、次々に人がやってきて・・・・。わたしが声をかけたら嬉しそうに、この人僕の友達なの、先に描いてあげてもいい?って順番待っていた人に言ってくれたの。みんな快く、ああいいよって、快く順番を譲ってくれたのよ。別に似顔絵を描いて欲しかった訳じゃないけど、なんとなくふぁんた君の前に立ったの。彼って包みこむような眼差しで、一生懸命描くのよ。なんだかぽーっとしちゃって、そしたら、はい出来たよ小林さんって。あの子わたしの名前覚えていてくれたのよ」


小林さんは少女のような顔をしてだーっと喋った。





みんなは何故か、なるほどなるほど分かるような気がする、と、頷いた。


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