Soft Luck ―ファンタが街にやってきた―
おかしなことに、名前によって苛められてた過去のいやーな記憶が、朝日を浴び砂になってさらさらと散ってゆくドラキュラのように、すっかり消え去って行くのを感じた。
―変な例えだが・・・―
みんなの視線はとても柔らかく、わたしはブラックコーヒーに、まろやかに溶けていくクリームを注がれた気分だった。
「ふぁんた、わたし歌う!」
アルコールのせいもあっただろうけど、わたしは大胆な発言をしていた。
「やったぁ、姉さんの歌が聞けるなんてラッキーだ僕!」
ふぁんたが万歳をした。
わたしはやぶれかぶれで天地マリの〔ひとりじゃないの〕を歌った。母がよく歌っていた曲だった。
やっぱり、こっぱずかしかった。