Soft Luck ―ファンタが街にやってきた―
「すごいや姉さん、上手だった。そうだ歌手になったらいいよ。僕うしろでピアノ弾いてあげる。カーペンターズのお兄さんみたいに」
ふぁんたがでかい手でバチバチ拍手しながら立ち上がって言った。
みんなはわたしの選曲と歌唱力に戸惑ったらしく、一歩遅れて拍手した。
「う、うまかった、よねっ。ねっ」
「うっ、うんっ!」
てな具合に。
「あら、ふぁんたちゃんピアノ弾けるの?」
権田ママが言ってふぁんたが「うん」と答えた。
「ねえねえ、お店にあるグランドピアノ弾いてみてよ」
ママがはしゃいで、ふぁんたは「いいよ」とスツールをまたいだ。
「何がいい?」
「ビートルズ弾いてくれ。俺の青春だぁ」
別のテーブルから声がかかった。
「オーケィ、じゃあ僕の勝手でメドレーにします」
ふぁんたが鍵盤をピンと鳴らした。
ピアノのことはよく知らないけれど、ふぁんたの奏でる音色は真っ直ぐにわたしの心に響いた。
いつのまにか店内のざわめきは消えていて、人々はメロディーの海にゆったりと浸っていた。