家族の事情
「なんで俺の周りは、くだらない奴らしかいないんだろう。」

謙一は自分を取り巻く環境を恨んだ。



「せめてあの人と仲良くなれたら」



謙一には1ヶ月ほど前から気になる人がいた。



彼女に出会ったのは、小雨の降る朝だった。

いつものように英単語カードをめくりながら、駅のプラットフォームで電車を待っていると、向かいのホームに目と鼻を真っ赤にし、呆けたような表情の女が立っていた。

一目でさっきまでひどく泣いていたのだとわかった。



年は22歳くらい、いやもっと若いかもしれない。

白いブラウスと黒のスリットスカートをはいているが、小柄でパツンとそろえた前髪が彼女を幼く見せていた。



たれた目が異様に大きく、アイシャドウのグリーンは安っぽい感じがした。

茶色く染めた髪は根元が既に黒くなっており、

ショルダーバッグは肩から落ちかけていたが、彼女は気にかけることもなく空を見つめていた。



彼女の白いブラウスは、左腕の肩の部分からべっとりと濡れていた。
< 11 / 14 >

この作品をシェア

pagetop