家族の事情
「彼女にこれほどまでに喪失感をあたえているものは何だろう」



その時、向かい側のホームに電車が滑るように入ってきた。



電車からたくさんの人が吐き出され、別のたくさんの人が飲み込まれていった。



謙一は彼女のことが気になった。

「彼女もこの電車に乗ったのだろうか
 そしてさっきまでの喪失感を隠し、また平凡な日常に紛れてしまうのだろうか」



電車はたくさんの日常を乗せ、走りだした。

電車が走り出したプラットフォームに彼女は、先ほどと同じ様子で立っていた。

彼女を再度見つけた時、謙一はなぜ自分の胸が高まっているのかはわからなかったが、彼女を見つめることは止めなかった。
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