家族の事情
謙一は両親が嫌いだった。

2人とも尊敬に値しないからだ。



父は何の面白みもない男だ。

毎日同じ時間に家を出て、休みはビールを飲みながらテレビで野球中継を見る。

その繰り返しに、きっとなんの不満も持っていない。

大概のことに興味がないように見える。

かと言って、渇望し何かを夢中で追い求める様子もない。

謙一は高校に入ってから父とまともに話さなくなった。

話したいことは何もない。



たまに父の何かいいたげな視線を感じることがある。

お前に何ができるんだ。
お前に助けてもらうことなど今までもこれからもない。

俺の世界とお前の住んでいる世界は違う。

決して交わることもない。



謙一は父を軽蔑していた。

しかし母のことはもっと軽蔑していた。
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