家族の事情
母は常に、自分より謙一や謙一より3つ年下のひと美を優先させて行動している。

その姿に感謝しなくはないが、なぜそこまでして自分の欲望を押さえつけるのか、謙一には理解できなかった。


「個がない女」


それが、謙一が母に対してもつ感想だ。

自分ひとりで何もできない人間は、弱い人間だと謙一は信じている。

家族がいなければ、自分自身の価値を見出せない母は、弱い人間だ。



化粧をほとんどせず、艶のない髪を1つに結んで自転車にまたがり、パートに向かう母の後ろ姿を見るたびに、謙一は

「俺のいる場所はここではない」

と思うのだった。

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