時雨の奏でるレクイエム
ラディウスは自分の部屋で眼をさました。

「まだ、追放されて、ない?」

コンコン
突然のノックにラディウスは身をすくませた。
――迎えが来たのかもしれない。
しかし、扉の向こうから聞こえたのは兄、ディランの声だった。

「ラディウス?いないのか?」

その声音に、国王のような憎しみと恐怖は宿っていない。
ラディウスは安心して、ベッドから身を起こした。

「いるよ、兄様」

「なんだ。いるんじゃないか」

扉ごしでも、ディランが苦笑しているのがわかる。

「どうしたんだ、灯りもつけないで」

ディランは部屋に入ってくると、灯りを灯した。
眩しくて、眼を細める。

「……寝ていたんだ」

「そうか」

ディランはイスに腰を下ろした。
ラディウスは、ディランが、追放をとめてくれたんだと思った。
しかし、その幻想は儚く散ってしまった。

「おめでとう、ラディウス」

「……え?」

「知らなかったな。ラディウスが幻獣を身に宿してるだなんて。これから神殿で、神官として身を清め、この世界を守るようになるなんて」

「……そんな」

「俺が知ってて、驚いたのか?今、国総出で祝っているぞ?今夜にはもう出て行くんだろ?ラディウスが神官になったら、俺達はもう会えない。だから、最後に、こうやって話しをしに来たんだ」

会えない。
最後に。
ラディウスは理解した。
国王は、自分の息子が、預言者であることをとことん嫌っていたのだ。
それに、そのことを知られるわけにはいかなかったから、カモフラージュさえ用意した。

「ラディウス、これから、俺はこの国を治め、守る。ラディウスも、この世界を守ってくれ。二人で、守ろう。これからは!」

ラディウスは、自分の中で、何かが壊れるのをきいた。
兄様に、なにが、わかる。
これから、俺がこの国を追放され、死ぬかもしれないのに、俺を追放しようとしているこの国を守るのか!俺にこの国を、この世界を守れと言うのか!

「あぁ……誓おう」

ディランは嬉しそうに笑った。
その日の夜、ラディウスは国を追放された。
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