時雨の奏でるレクイエム
銀色の絆
「ラディウスは、行かなくていいの?」

「どのみち俺は戻れないよ。父上のせいで一生神殿勤めしてることになってるから」

「そっか……」

クルーエルは猫を呼ぶとそのふかふかの毛並みに顔を埋めた。
猫はぶつぶつと文句を言っていたが、根は優しいのか、クルーエルに支配されて動けないのか、クルーエルをどけようとしなかった。

「ねえ、なんでオリビンは王家を弾かれたの?」

「くだらない慣習だよ。王家の人間はすべて銀灰色の髪を持っていなければならない。それだけの理由だ」

「嘘……!」

「曰く。神の子孫であるから、神と同じ特徴を持った子しか王族になれない、ってね」

オリビンの髪の色は亜麻色だ。
銀ではない。

「でも。髪の色なんて、遺伝で変わっちゃうものなのに……」

「ああ。だから俺達は、この国を任されるようになったら、この慣習を捨てよう、と話し合った」

あの髪飾りはその意志表示でもあったんだよ、とラディウスは言った。

「でも。オリビンは、俺のせいで父王を殺してしまった」

「え?」

「お前だろ、ヘル。記憶を喰えば精神は磨り減る。お前が記憶を喰いきってしまえば、人間は耐え切れず衰弱死してしまうんだ」

『ふん。リリスか。さすが王に近しいものは知識量が多いな』

「情報は武器だ。盾にもなる。オリビン姉様がこんなことをした理由は、俺の追放なんだろう」

「もしかして」

「俺と自分を重ねて、父王が許せなくなったんだな。まだ、わからないことも多いが」

「そういえば、なんで王都中の人がラディウスのことを忘れたんだろ」

「ヘル」

『あーあ。帰ったら王に怒られるなぁ。なんてことしてくれてんだよー』

猫はわざとらしく話題を変えた。
ラディウスは呆れたようにため息をついた。

「うるさい。いくら姉様に一目惚れしたからって闇に堕ちることはないだろう」

「ちょっと待って、ラディウス今なんて言った!?」
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