時雨の奏でるレクイエム
「ラディウス……」

どうやら落ち着いたらしいオリビンと一緒にディランがやって来た。
オリビンは崩れた顔を見せたくないのか俯いていた。
ラディウスは視線を猫から逸らしディランを見上げると、何?と聞いた。

「オリビン姉様のことで話がある。あと、眠っている人達についても」

「ああ。そのことなんだが、クルーエル。記憶は兄様のぶんだけ戻ったのか?」

「えーとね。戻った人もいるし、忘れてる人もいる。もう一度忘れさせるか思い出させるかしないと混乱しちゃうかも」

「じゃあ忘れさせることにするか」

「ラディウス!!」

ラディウスは即答し、それに対してディランが声を荒らげた。

「もちろん、兄様と姉様は別だ。家族なんだから、覚えてもらわないと困る」

クルーエルはラディウスが照れてると気づいた。
そっぽを向いて頬が少し赤い。
そっか、素直になるのが照れくさいんだ。
クルーエルはなんだか少し嬉しくて微笑んだ。

「ラディウス……」

ディランも目を見張る。

「お前、ずいぶん丸くなったな」

「うるさいよ」

「クルーエル様のおかげですのね」

立ち直ったらしいオリビンが茶化す。
クルーエルは突然話を振られて慌てふためいた。

「え、えぇ!?そんなことっ……!」

ラディウスはむすっとして黙り込むし、猫はここぞとばかりにげらげら笑うし、ディランはきょとんとして、そうなのか、ラディウス?と事態をわかってないように聞くとで、場の空気は確かにやわらかくなっていた。


これは、長い兄弟喧嘩みたいなものだったのかな、とクルーエルは思う。
なまじ身分が高いだけに規模が世界を揺るがすほどの規模になってしまっただけで。
聞けば、オリビンは、姫じゃなくてもいいから、ラディウス達の姉でいたいと思ってたらしい。
でも、自分の存在を消そうとした父は憎いし、その父がラディウスを捨てたとき、弟を奪われた憎しみも相まって、感情が最高潮に達したゆえのこの騒動だと聞いて、クルーエルは苦笑するしかなかった。
こじれた糸は、ゆっくり解いていけばいい。
幻獣界行くまでは、しばらく王宮暮らしをすればいい。
せっかく、姉弟皆そろったんだから。
私が、寂しくないといえば、ちょっと嘘になっちゃうけど。
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