時雨の奏でるレクイエム
城に滞在してから3日くらい経った頃。
クルーエルは散歩がてら城の外にある庭園を歩いていた。

「すまない」

「え?」

クルーエルは突然聞こえた声に驚いて振り返った。
一瞬らディウスかと思ったが、そこにいたのはディランだった。

「瞳の、色のこと」

気まずそうに切り出すディランの言葉に、クルーエルは一つの過去を思い出した。

『嫌な色だ。全てを蝕み、覆う灰のような……』

夕食時、ディランと対面したとき、ディランは真っ先にクルーエルの瞳を見てそう言った。

「ラディウスから聞いたんだ。その瞳は、本来蒼いモノなんだと」

「私は、よくわからないんだけどね」

ディランはクルーエルに近づき、膝を折った。
手をかざして、クルーエルの瞳を覗き込む。
クルーエルはぎくりとして身を強張らせた。
そして、ディランは納得したようにああ、と呟いて微笑むと言った。

「凍った月の、雫の色ね……。上手い表現だ」

クルーエルは緊張して口を開けなかった。
――どうしてこの兄弟はいちいち距離が近いのだ。
ディランはクルーエルから離れると、なにかを思い出したようにあ、そうだと呟いた。

「ラディウスが探していたよ。きっとテラスの方にいるはずだ」

そう言って、ディランは背を向けた。
クルーエルはその背をしばらく見つめてから、テラスの方へと駆けていった。


幻獣界へ行く決心がついたのかもしれない。
たしかに、そろそろ頃合だろう。
もし、幻獣界から帰ってくるようなことがあれば、そのときはオリビンもディランも幸せだといい。
でも、そこにラディウスは帰れない。
その辛さはどうしたら紛れるのかな。
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