時雨の奏でるレクイエム
「ラディウス!」

「ん?ああ。クルーエルか」

テラスに寄りかかって猫と一緒に王都を眺めていたラディウスはクルーエルの姿を認めるとこっちに来た。
ラディウスと猫(記憶の幻獣、ヘル)はもうすっかり仲良くなっている。

「ディランが、ラディウスが呼んでたって言ってて……」

「ああ。明日の朝、幻獣界へ行こうと思う。二人に挨拶はしないから、準備しておいてくれ」

二人というのは、オリビンとディランのことだろう。

「……やっぱり、こっそり行くの?」

「ここが俺にとって心地よい場所であるかぎり、顔を見てしまえば決心が鈍る」

「ここにいたいなら、ここにいればいいよ。もう、私一人でも、なんとかなるから……」

「いや」

ラディウスは即座に否定した。
その声は凛と響き、音を司る身としては、心地よく感じる。

「俺は、もう幻獣なんだ。いつまでも、人間の振りをして今を認めないような無様なことはできない」

「うん……」

「それに」

ぽん、とクルーエルの頭にラディウスの手が置かれる。

「最後まで付き合うさ。ハーヴェストで始まってから、ずっといたんだ。最後の最後で一人にはしない」

「ありがとう……」

頭に置かれた重みと暖かさが嬉しくて、クルーエルは泣きそうに笑った。
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