時雨の奏でるレクイエム
「神の残滓……?」

「そう。神がこの世界に残してきた言葉がヒトの形をとったもの」

リズナードと名乗る少年はくすくすと笑いながら聞いた。

「意味わかる?」

「だいたいわかる……」

フェアルーンを支配する生き物は「ヒト」。
フェアルーンの全てを司り、守る生き物は「幻獣」。
そして、フェアルーンを作り出し、それぞれの生き物に役割を与えたのが「神」。
その神の言葉は絶対であり、それ自体が世界となる。
ここに残された言葉は、誰かを待ち、伝えるためにヒトの形を取った。
それが、今目の前にいる少年なんだと思う。

「じゃあ、僕が君の前にいる意味も?」

「……もしかして、私に?」

「そう。教えてあげようと思ってね」

何を、とは言わなかった。
だいたい予想はついたから。
リズナードは、何が面白いのか袖で口元を隠してくすくすと笑う。

「疑問には思わなかったの?僕の姿について」

聞いちゃいけない気がする。
気づいてたけど、聞いちゃいけない。
なんで、銀灰色の髪なのか。
なんで、赤い瞳なのか。
なんで、あまりにも……似ているのか。

「君も思ったことがあるだろ?ラディウスは美しすぎる。だれにも敵わないほど」

聞いちゃいけない、と思うのにそこから一歩も動けない。
手も動かない。
声も出ない。

「クルーエル」

歌うようにリズナードはクルーエルの名前を言った。

「残酷な神繰りの少女、君はノインの用意した仮初めの器。じゃあ、神が宿るにふさわしい本物の器は?」

銀灰色の神が肩をすべる。
紅い瞳が問いかける。

「もしかして……」

くすくすと神の残滓は笑う。
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