時雨の奏でるレクイエム
クルーエルは孤児だった。
2歳の頃、ノインに拾われて、ずっと育ててもらった。
クルーエルと名づけたのはノインだ。
その頃の記憶はない。
物心ついたときから、自分はクルーエルで、ノインの妹で、神をフェアルーンへ呼び出すための生贄だった。
この名前は生贄の証。
『残酷な神繰りの』その証。

生贄といえど、神は何度もヒトとして、幻獣として生まれてくるから、その生をまっとうすることだってできる。
でも、神が、その生を失ったとき、フェアルーンに危機が訪れたりしたらどうなるのか。
もはや神にしか事態を収拾することが出来ないことが起きたら。
そのための生贄。
そのための、神の器。
とはいえ、その務めは誰にでもできるわけじゃない。
ヒトとして、幻獣として生まれた神となんらかのつながりがなければそれはなしえない。
たとえば、ヒトとして生まれた神の息子や娘。
たとえば、幻獣として生まれた神の後継者。
ノインの前の音の幻獣は、神だった。
だから、音の幻獣になる私は、器になり得る。
じゃあ、ヒトは?

「もしかして……」

「神がヒトとして生まれるとき、神はかならず一つの血筋にのみ、神の血をまぜた。そして、それをもっとも色濃く受け継いだ存在こそが」

「ラディウス、なの……?」
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