時雨の奏でるレクイエム
ラディウスは落ち着いた色合いのローブを羽織って耳と尻尾を隠すと、視線を馬に向けた。

「はじめまして、姫様、神子様」

「わっ喋った……」

「私は姿こそ獣ですが、ちゃんと言葉を扱うことができますよ。ですが、姫様が望むのなら人の姿をとりましょう。」

そう言うと馬は軽やかに旋回した。風が馬を包み込み人の姿になる。
優しげな風貌の青年だ。
長く美しい尾がちらりと見える。

「私の名はテオです。道を司る幻獣であり、新たに幻獣となったお方のための案内役を幻獣王から仰せつかっております。既にあなた方の属する立場は知っておりますが、しきたりですので、幻獣詞をお見せ願います」

「ああ」

ラディウスはローブを左肩にだけかけ、右肩にある幻獣詞をさらす。
クルーエルは少し長くなった髪を紐で上にまとめてうなじを指差した。

「たぶんここにあると思うんだけど」

テオは二人の幻獣詞を一瞥すると、にっこりと微笑んだ。

「それでは、光の幻獣王の下にご案内します」

テオが右手で何もない空間を裂くと、空間の裂け目に町が現れた。

「こちらは、中立都市ウェナベルです。ここから光の都市に移動します」

3人はテオを先頭に、裂け目の向こうへ移動した。
広い草原に、街の姿が消え、また元の広い草原に姿を戻す。
そこは、新たに生まれた幻獣が最初に来る始まりの草原、ザルバだった。
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