時雨の奏でるレクイエム
光の幻獣王フェンベルン
テオに案内されて中立都市を抜ける。
テオはまたも空間を切り裂いて道を作った。
道の向こう側は全てが鮮やかな色合いの幻結晶で作られた広い道だった。
熱くなって腫れてしまった目元を冷やすために手で視界を遮っていたクルーエルもその道を見たときは思わず手を放してしまった。

「綺麗……」

記憶の中だけでなく、自分の目で見るものは本当にまったく違って見えるもので、クルーエルは感動してしばらく動かなかった。
隣でラディウスも目を見張っている。
するとテオがくすっと笑って振り向いた。

「ここに初めて来る皆さん、本当に同じ反応をするんですよ」

一歩歩くたびに鈴が鳴るような、可憐な音が響く。
3人分のその足音が重なり、まるで音楽を奏でているようだった。
しばらく歩いていくと小部屋にたどり着いた。
水音が聞こえる。
小部屋に入ると、水色の髪色の少女が噴水のような泉の前で一心不乱に祈りを捧げていた。
小部屋は神聖な雰囲気で満たされていて、涼しい。
ラディウスは少女を見つめていた。
その表情は伺えない。
テオは少女に声をかけることもなくその小部屋を後にした。
それにラディウス、クルーエルと続く。
小部屋を出ようとしたとき、可愛らしい声をクルーエルは聞いた。
振り返ってみても、もう声は聞こえなかった。

3人が小部屋を出てすぐ、少女は立ち上がった。
そして、もう見えなくなった人影を見つめる。
床に広がる巫女服に水がはねる。

「神子様……姫様がお帰りになられたか」

少女は水色の透明なまつげをそっと伏せた。
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