時雨の奏でるレクイエム
幻獣王は少しだけ寂しそうな顔をしたが、すぐに威厳のある表情に戻った。

「我が義弟よ、人の名は?」

「ラディウス」

幻獣王は微妙な顔をした。

「よくある名だな……」

「フェアルーンの女帝にも言われました。そんなにありきたりな名ですか」

「いや。今のフェアルーンの民はその名をほとんど忘れ去っているだろうが……その名は、勇者の名なのだよ。最初の神の生贄である、勇者の」

「……」

ラディウスは気が重くなった。
クルーエルに神の生贄である意味があるようにこの名前にも意味はあったのだ。
神であった母親のことを思い出し、ラディウスは少し鬱になった。
……あの人は、俺に生贄であることをずっと求めていた。

「まったく。こんなことは初めてだ。これもノインとリリスの愛の力だと言うのか。神よ、あなたは残酷だ」

「……」

ラディウスもクルーエルも何も言えなかった。
光の幻獣王、闇の幻獣王は未だ唯一転生をしていない幻獣だ。
この世界の誰よりも長寿、この幻獣界とフェアルーンが出来たときから生きている超越者。
そんな彼をここまで悩ませることが出来るのは自分達だけなのだろう。
まったく光栄ではないが。

「我が、義弟……お前の名はハディアだ。だが、真の名はラディウスだ。そう生きろ」

「はい、陛下」

「義兄と呼べ。リリスも公式の場以外ではそう呼んでいた」

「はい……義兄様」

ラディウスはその言葉に自分の兄であるディランを思い出していた。
まだ別れてから一日しかたっていないのに、ひどく懐かしく感じた。

「さあ、二人共。今日は二人の帰還を祝うパーティーを開こう。我に属する全ての幻獣に二人の帰還を知らせるのだ」
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