時雨の奏でるレクイエム
一時の休息
水晶の宮殿の、記憶の中でだけ知っていた部屋は私のものになっていた。
当然と言えば当然……私は幻獣の姫となったのだから。
ハジマリを、振り返る。
ノインと出会う前、私は孤児だった。
いつからそうだったのかは覚えていない。
そのとき私はまだ6つだった。
ノインは私と初めて会ったときの事をこう記憶していた。

くすんだ赤毛は長く伸ばされ乱れていて、遠くの海を思わせる青い瞳は恐ろしいほど透明で、何も写さずたたずんでいたと。

これなら、ニエに相応しいと……。

まさかノインは夢にも思わなかっただろう。
こんなにも感情的な娘に育つなんて。
こんな私に情を抱いてしまうなんて。
もう一人の生贄の少年と生きるための旅をして、そして生贄としての私を拒絶するようになるなんて。

二人一緒に生きるためには、神を下ろすことは何があってもしてはならないことなのだから。

私達、まだ出会って一年もたってないんだよ。
ほとんどの旅路は二人きりで、最初の頃は滅多に会話もしなかった。
惹かれる思いは身に宿る幻獣のものなのだと、二人して気持ちを抑えつけていた。
それが間違いだったのだと気づいたときには、もう手遅れだった。
私達の恋は決して情熱的なものではなくて、布に水を少しずつ浸すような、全身に行き渡り、それを外にもらさないように隠し続けた恋だった。
それでも限界が来たら、一気に溢れてしまうような、少しでもふれれば水滴が落ちてしまう、そんな危うい気持ちだった。
言ってはいけない。
隠し続けなければいけない。
そう思っても、とめられるようなものじゃない。

そうでしょう?

「ラディウス……」

戸に手をかけ、ひっそりとたたずむラディウスが、少し辛そうな笑みを浮かべた。
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