時雨の奏でるレクイエム
「ううん、旅は、終わってるよ」

クルーエルははっきり言った。

「居場所はある。ただ、その居場所を護らなくちゃいけないだけだよ」

「クルーエル、お前の居場所はどこにある?」

クルーエルは答えるのをためらった。
――迷っているのか。
ラディウスはクルーエルの部屋に入った。
そしてベッドに腰掛けているクルーエルに近づいた。
クルーエルは不安そうに、だけど動かず見上げてきた。
目の前に立ち、ただお互い見詰め合った。

「ほら」

手をクルーエルに差し出すと、クルーエルはその手をとって立ち上がった。

「少し、散歩にでも行こうか」

「うん……」

その声はか細く、優しげだった。
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