時雨の奏でるレクイエム
「不思議だね。灯りはないのに、月もない透明な夜なのに、おぼろに光ってて……綺麗」

水晶の城のテラスから光の街を見下ろす。
それはかつて何度も見た景色で、だけど初めて見る輝きだった。
この街の輝きは常に移ろう。
それは幻獣自身の光であり、自分も、クルーエルも淡く発光していた。
自分は青に、クルーエルは赤に、幻獣詞と同じ色に発光している。
夜だけこうなるのではなく、常にそうなのだが、昼は目立たず気づかれにくい。

「ああ。ほら、光がここに集まってくる」

「皆が集まって、パーティーが始まったら私はシルヴィアなんだね。……クルーエルじゃなくて」

「その名を無理して名乗る必要はない。神なんぞに明け渡す必要なんか……ないんだ」

「ちがうよ」

クルーエルはふるふると首を振って言った。

「お兄ちゃんに会ってから、ラディウスに会ったときも、旅したときも、闇の眷属と一緒に戦ったときも、真実を知ったときも、私はクルーエルだった。神繰りとしての私だったから……名前を捨てたら、思い出も私のものじゃなくなっちゃう気が、したの」

だから、失くしたくない、とクルーエルは苦しそうに言った。
もともとは自分の身代わりとして作り変えられたクルーエルだが、小さい頃から生贄だと言い聞かされてそれでもなお、意志の強い優しい娘に育ったことは、きっと、奇跡に等しい。
それでも、怖いものはあったのだろう。確固とした意志を持つゆえに、強く恐怖し、苦しみ、悩んだのではないだろうか。
そして、今も。これからも。

クルーエルはいつの間にか壊れてしまっていたペンダントを取り出した。

「これね、結界の幻獣の幻結晶なの。私の魔力を封じて、代わりに結界魔法が使えるようになったのもこれのおかげ」

ラディウスはクルーエルを初めて見たときのことを思い出していた。
確かに、クルーエルの魔力はすさまじく、そのとき既に闇に傾いていたのでだろう世界のバランスを無理やりそろえていた。
そして、自分が彼女を見つけたとき、この幻結晶が発光し、駄々漏れていた魔力を封じていたのだ。

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