時雨の奏でるレクイエム
帝国領エリン
一番近くの街は、帝国の占拠した元王国領エリンだった。
寂れているかと思えば、そうではなく、市場には活気があった。
クルーエルをぼろぼろのワンピース姿で歩かせるわけにはいかなかったので、ラディウスは外套をクルーエルに羽織らせた。
クルーエルは市場が珍しいのか瞳を輝かせてあちこち見てまわっている。
すると、露天の一つがクルーエルに声をかけた。

「緋色のお譲ちゃん!この、君と同じ色の木の実はどうだい?」

「わあ!綺麗……。大きい木の実だね」

「だろう?この辺では珍しい木の実だよ。りんごと言うんだ。どうだい?今なら20セルだよ」

「ね!ラディウス!」

クルーエルは期待を瞳に込めて振り返った。
ラディウスはりんごを手に取りまじまじと眺める。

「駄目だ」

「なんで!?」

クルーエルは怒りよりも悲しみを瞳に浮かべた。
瞳の色を見なくてもわかる。
クルーエルの表情は悲嘆に暮れていたからだ。
ラディウスはため息をついてクルーエルの手をとった。

「後で教えてやる。店の親父に恥かかせるわけにもいかないからな」

とたんに露天の主人は申し訳無さそうな顔をした。

「すまねえ、銀の旦那。まさか気づく奴がいるとは思わなんだ」

「いや……。そちらこそ分別のつく親父でよかった。たまにいちゃもんつけられることもあるから」

そのままラディウスはクルーエルの手をひいて歩き出す。
クルーエルは文句こそ言わなかったが不満たっぷりの顔でついてくる。
それをみてラディウスは買うだけなら買っとけばよかったか、と思った。

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