時雨の奏でるレクイエム
砂漠の村コウサ
砂漠の村コウサは、毒砂に犯されながらも、人は力強く生き、村は活発に機能している。
それはひとえに砂漠に紛れる希少金属のおかげだろう。
その希少金属からでしか、砂漠を渡れる船を作れないため、少量であっても、高い値段で取引されているのだ。
だからこそ、毒に犯されながらも人の表情は明るく、村は活発、なはずであったが……。

「ラディウス……だれもいないよ」

「……ああ」

全ての店は閉ざされ、民家からは灯り一つもれていない。
もう、日は落ちたというのに。

「きっと、アルミナの言ってたモンスターのせいだね」

クルーエルは袖に隠れた指先で、袖ごとラディウスの外套をつまむ。
少し怯えているようで、声や指先が震えている。

「……ああ」

ラディウスは、クルーエルを安心させることのできる言葉をかけてあげられなくて、少しいらだった。
そもそも、クルーエルは知識は豊富とはいえ、記憶をなくした、生まれたばかりの幼子みたいなものだ。
不気味なものや、怖いものに人一倍過敏なのだろう。
それに、ハーヴェストを除けば今まで寄った町は全て夜でも活気で溢れていた(ハーヴェストは別の意味で活気があったが)。
この、生物の気配のしない村は、クルーエルにとっては未知の存在だろう。


ラディウスは、このような村を何度も見てきた。
人が全て自然と消えてしまった過疎の村。
モンスターに追われて、村を奪われてしまった悪鬼の村。
そして、他人を疎外する、身内の村。


このようになってしまった村は、大抵余所者を歓迎しない。
モンスターを倒すにしても、情報が欲しい。
そのためには、村人の協力が必要不可欠なのだった。
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