時雨の奏でるレクイエム
クルーエルは頭が痛むのを感じていた。
――くらくらする……ラディウスの言ってた毒のせい?
しかし、ラディウスは平気そうだ。
あたりをきょろきょろと見渡してはイライラと舌打ちをしている。
クルーエルは少しだけほっとした。
――良かった。ラディウスは元気なんだ。
そうでなければ、ラディウスは自分よりも私の心配をするだろうから。
それはクルーエルの望むところではなかった。

「クルーエル?」

「……え?」

「顔色悪いぞ」

しまった。早速ばれた。
クルーエルはラディウスの勘の良さを呪いつつ、正直に話した。
ここで下手に嘘をついても、ラディウスは疑ってクルーエルを問い詰めるだろう。
ラディウスは、クルーエルの親か、兄のつもりなのだろうから。
――兄。
そんな単語がふわりと脳裏に浮かび、消えた。
頭の痛みが突然増して、クルーエルは気を失った。
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