時雨の奏でるレクイエム
ラディウスとクルーエルは村娘の家に招かれた。
村娘の名前はシトロンというらしかった。
ラディウスはクルーエルをベッドに寝かせてもらうと、シトロンから話しを聞くことにした。

「五ヶ月、前のことです。この村にある召喚術師が現れました。私達は彼を歓迎しましたが、彼は、ある恐ろしいモンスターを召喚し、そのまま去ってしまいました」

シトロンの瞳に怯えが宿る。

「そのモンスターは私の姉を含めて、3人の女性を連れ去ると砂漠にもぐってしまいました。それから、このコウサで、希少金属がとれなくなってしまいました」

ラディウスは、おそらく彼女等は、そのモンスターの栄養源になっているのだろう、と考えた。
しかし、それは違うようだった。

「毎日、夕方になるとそれは砂漠から現れます。そのとき、外にいた女性を連れ去って行きます。そして……檻のようなところに、個々に閉じ込められてしまうんです」

「閉じ込められる?」

「はい。草のツルのような檻です。みんな、その中で眠るようにしています。でも、皆、みんな……すごく、顔色が良かった。もう、しばらく何も食べてないはずなのに、村の毒に犯されていた頃より、ずっと、ずっと……」

「それは、良い事ではないのか?」

「私も、最初は、悪いことではないと思いました。あの、巨大な植物のようなモンスターは、毒を浄化してくれるんだろう、と」

そこで、なにかを思い出したのか、シトロンの顔が蒼白になる。
瞳には、拒絶と嫌悪、そして、深い絶望があった。

「だけど、だけど……お腹が膨れてたんです。まるで……妊娠しているみたいに」

その瞬間、ラディウスの背中にぞっとしたものがなでるような、不快な感覚を感じた。
そして、吐き気がこみ上げる。
理解した……。その化物は――

「このままだと、お姉ちゃん……化物の、子供産んじゃうぅ……」

シトロンが泣き出す。
ラディウスは、クルーエルのことを想った。
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