時雨の奏でるレクイエム
ラディウスは、クルーエルがいないことがすごく不安に思えてきた。
クルーエルの身体はそこにあるが、クルーエルの魂はずっと、ずっと奥にいるのだ。
同時に、クルーエルがこの話しを聞かないでよかったとも思った。
記憶のない、まっさらな少女が、こんな話しを聞いたら、どうなってしまうかわからない。

「クルーエル……」

ラディウスはクルーエルの寝顔を見つめた。
今日は、シトロンの家に泊まらせてもらうことにした。
明日、クルーエルが目覚めなかったら、多分自分はクルーエルを置いて、モンスターを倒しにいくだろう。
叶わなくても。殺されてしまうとしても。


モンスターの姿は、シトロンの家の窓から見た。
植物のような巨大なモンスターだ。
だが、その身体は狼と同じ、闇色だった。
ツルは太く、触手のようで、気持ち悪い。
囚われた女性達も見えた。
そのどれも安らかに眠っているように見える。
だが、ツルで身体は拘束され、檻のようなものに閉じ込められていた。
あれは多分、女性が逃げ出さないように、ではなく、外部から女性達を取り返されないようにしているのだと思う。


ラディウスはクルーエルの頬をそっと撫でた。
懐かしいような愛しさが込み上げる。それは、ラディウスに宿る、幻獣の感情だろう。
クルーエルと、リリスは、どんな関係なのだろうか。
ふと、ラディウスが考えたとき、クルーエルの銀の瞳が視界に入った。
クルーエルの頬を撫でる手は、クルーエルの両手で包まれている。

「思い出したよ、ラディウス。私がいったいなんなのか」
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