時雨の奏でるレクイエム
クルーエル……。

『助けたいですか?』

助けたい。

『ならば、私を受け入れて』

受け入れる?

『私の名前を呼べばいいのです』

知らない。

『知らないはずないです』

どうして。

『貴方がこの世界に生まれおちたときから、一緒にいるんですから』

そうか……君が――

「リリス……君を、受け入れる」

最初は憎んでいた。
魂が一つになっていくことに、恐れも感じた。
でも、今は素直に、こう言えた。
リリスがいなければ、出会えなかった。
――クルーエル。緋色の少女に。

『我、預言を司る幻獣リリスは、ラディウスを後継とし、その力と役割と名前を全て譲ることをここに宣言する』


――ノイン様……私は、先に還ります。始まりの場所へ。貴方とつながるどこかへ……。
ああ、楽しかった。貴方との旅は。欲をいうなら、もう少し、そばに居たかった。貴方の、そばに……。


ラディウスは一瞬だけ、リリスの姿を見た。
緋色の長い髪を二つに結った、美しく、どこか儚い女性だった。


絡まった魂が一つに融合する。
全てを知り、見つめていた幻獣は、そのとき、全てを失い、どこでもないどこかへ還っていった。

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