時雨の奏でるレクイエム
しばらく歩くと、大きな部屋のようなところに出た。
中央には巨大な水晶が鎮座している。

「……そんな」

クルーエルは絶句した。
水晶に、女性が封じ込められている。
おそらく、あれは幻獣。
でも、だれだろう?わからない。

「妾達の一族の祖。空間を司る幻獣、リディア」

「リディアだと……時を司る幻獣ザルクの恋人だったはずだが」

「ザルクもおるよ」

ラディウスはぴりぴりと神経を尖らせてうなっている。
アルミナは愛しそうに水晶をなでる。

「もともと、リディアとザルクの子がこの一族を興したからの」

「なのに、祖はリディアなの?」

「リディアは、自らの子が人間と結ばれたとき、その子達に力を与え、その代償にここに閉じ込められたのじゃ。ザルクは転生を繰り返しながら一族の元でリディアを守り続けておるよ」

「それで、祖なのか」

ラディウスはじっと水晶のなかにいるリディアを見上げる。
複雑そうな顔をしている。

「もともと、リディアはお人よしだった。そのせいでこんなことになったのか」
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