時雨の奏でるレクイエム
小さな十字路、人が通るための幅は一人ぶんしかない。
兄に手をひかれてそこにさしかかったとき、狂気をちらつかせた瞳をした男がクルーエルに銃を向けた。

「……あ」

銃声がした、と思ったときには、クルーエルはノインに引っ張られていた。
そして、くるりと二人の立ち位置が変ったと思ったら、ノインは、わき腹から血を噴出して倒れていた。

「お兄ちゃん!!」

銃を撃った男は既に逃げ出していた。
ノインは息を切らせながら上半身だけを起こし、壁に背を預けた。
血を吐いたのか、口元が赤い。

「神、よ。感謝、します……い、もうとと、話す、時間を与えて、くれたこと、に……」

「お、お兄ちゃん!しゃべったら駄目!止血、すればきっと助かる、から……」

クルーエルはなみだ目になりながらわき腹の傷を押さえる。

「駄目、だよ。銃弾は、肝臓を、通ってしまった、から。僕には、クル、エルに……必要な、ことを話す、時間しか、ない」

ノインは、自らが首にかけていたペンダントをクルーエルの手に握らせると、言った。

「クルーエル、君の名前を、教え、よう。クルーエル・ファスティアナ。これを持って、幻獣王ラウドをたずねなさい。いいかい?一人で、行ってはいけない、よ。夕焼けの瞳を持った、預言、者と、行か、ないと……たどりつけ、ない、から」

「嫌……。行かない。お兄ちゃんと、一緒に、行く……」

ノインは困ったように笑った。

「泣くな、クルーエル。僕は、今……とっても幸せなんだ」

――約束だ。生きてくれ……

ノインは最後に呟くと、乾いた咳をして、クルーエルの足元に崩れ落ちた。
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