時雨の奏でるレクイエム
王都は道が広く、おそらくそこに露天が出され、人々は活気に溢れていたのだろうとクルーエルはぼんやりと思った。
しかし、今朝国王が亡くなり、皆喪に服しているのか人はあまり見かけないし、たまに見かける人も暗い色の服を身に纏い不景気そうな顔をしていた。
ラディウスは何故か髪を切り落としてしまい、眼帯を外してほとんど出会ったときの格好に戻ってしまった。
違うのは髪の色だけだ。
ただ、あの頃よりも幾分表情が柔らかいので少し幼く見えた。
そういえばラディウスは歳いくつなんだろう。
アルミナの話しだと15歳から17歳くらいだというのは想像がつくんだけど……。

「どうして変装やめちゃったの?」

とりあえず、目下の疑問はそれだ。
ラディウスはちらりとクルーエルを見ると、すぐに視線を前に戻してしまった。

「さっき、様子を『視た』んだが、忘れられているようだからな」

「忘れられている?」

「この王国に、王族は宰相であり叔父であるレギオンと、現国王であり兄であるディラン、そして神殿に姫巫女として幻獣王に身を捧げた、ディランの双子の妹ルナだけということになっているらしい」

「どういう、こと?」

ラディウスは薄く笑って自嘲気味に答えた。

「第二王子ラディウスの存在を、この王都にいる誰一人として憶えていないということだ。つまり、記憶の幻獣もしくは、記憶の幻獣憑きが、なにかを企んでいるんだろう」
< 69 / 129 >

この作品をシェア

pagetop