時雨の奏でるレクイエム
「そんな!」

肉親にすら忘れられるなんて、自分の存在を認めてもらえないなんて……どんなに辛いことなんだろう。
酷い孤独だ。
クルーエルは、ノインが自分を庇って死んでしまった時のことを思い出した。
一人ぼっちになってしまったあの時のことを。
もともと、利用されるために拾われた子供だったけど、ノインは私を愛してくれた。
一度は失った家族のぬくもりを、また感じることができた。
それを再度失ったときの喪失感は、一瞬自我を失うほどに強かった。
記憶を失くしたのはそれが原因ではないのだけれど。

「あまり気にするな」

そのとき、ラディウスがぽん、と髪を撫でた。
熱と重みが伝わってきた。
クルーエルはラディウスを見上げる。
ラディウスは微笑みを浮かべてぐしぐしと髪を撫で続けた。
クルーエルはその微笑みに嫌なものを感じ取った。

「皆が皆、忘れたわけじゃない。現に、クルーエルは憶えているだろう」

「うん……」

クルーエルはうつむいた。

「うん。私は絶対忘れないよ」

約束するから、死なないで。
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