時雨の奏でるレクイエム
セレスティア城
クルーエルはラディウスの少し後ろをとぼとぼと歩いていた。
尾を引くのは、ラディウスがクルーエルを邪険にしたこと。
迷惑がられていたのかもしれない、とぼんやりと思っていた。
聞きたい。
でも、聞くのが怖い。
こんな風にラディウスに遠慮したのは、初めてだな、とクルーエルは思った。

「クルーエル」

名前を呼ばれて、クルーエルはびくっと身体を振るわせた。
もともと口数の少ないラディウスのこと。
名前を呼ばれるときは、いつも違和感がつきまとう。
慣れれば、なんてことはないのだろうけど。

「すまない。だが、シオンに感づかれるわけにはいかなかったんだ。情報屋相手に、プライバシーもなにもないからな」

「え?」

はっとそこで気づく。
自分にとっては当たり前のことになっていたが、ここでは違う、他人はそうじゃないのだ。
さらに、リリスは破滅を喚び込むと信じられている。
幻獣とかかわりがあると思われるのはまずいと、アルミナも言っていたというのに。

「ご、ごめんなさい……。わ、私……私……!」

あと少しで、とんでもない事態を招いてしまうところだった。
クルーエルが泣きそうになると、それを察したラディウスがため息をついて、クルーエルの髪をくしゃりと撫でた。

「とりあえず、闇の幻獣王の召喚を阻止しなくては。反省するのはそれからだ」

それに、とラディウスは続ける。
クルーエルはなんだか痛そうな顔だな、と思い、はらはらと緊張しながらラディウスの言葉を待った。

「預言を視たのは、確かなんだ」
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