時雨の奏でるレクイエム
王城の近くの宿は値段が高いということで、市壁よりの宿に部屋を借りた。
ラディウスは明け方早く起き出し、魔法を紡ぐ。

『赤い夢。夢の檻。檻の鳥。鳥の翼。翼の傷。傷の赤。分岐の先の赤よ泣くなかれ。ここにあるのは夢の靄――』

赤い光がラディウスの足元で陣を紡ぎ、廻り出す。光はそのまますぅ……と音もなく消えた。

ラディウスは魔法の余波で伸びた髪を小刀で乱雑に切り、染め粉で金に染め直す。
紐で軽く髪を括ると、そのままどさっとベッドに倒れこんだ。
――疲れた……。
意図して人に影響させる魔法を紡ぐのは疲れる。
しかも、いくつもある未来のうち、必要なものだけを切り取って、人に視せるのは労力と精密さと集中がいる。
余計なものを見せてもだめ。
削りすぎて大切なことが伝わらないのもだめ。
――でも、初めてのわりには、よく出来た。リリス……貴女が残してくれた記憶のおかげだ。
預言獣になりたての時は、力が不安定だったけれど、最近は安定して、リリスの残した力にや幻獣、幻獣界などの重要な記憶を思い出すことができた。
――疲れた……。ちょっと寝よう。
ラディウスは毛布もかけずに深く眠った。
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