時雨の奏でるレクイエム
「これ、どうやって着るの……?」

クルーエルはクローゼットから取り出した服を広げて首を捻った。
夕食にはオリビンの用意した服を着て一緒に取ろう、と。
それがディランの要求だった。
だが、慣れているであろうラディウスと違ってクルーエルは平民の出だ。
いきなりこんな着るのに苦労しそうな服を用意して放置されるのは困る。

「ラディウスー……」

結局どうしようもなくなってクルーエルはラディウスの部屋につながるドアを開けた。

「あ」

ラディウスはとっくに着替え終わっていた。
それは問題ではない。
よく似合ってる。

「ラディウス、肩……」

「あぁ……」

その服は肩の出るデザインだった。
それ自体は問題ないだろう。
だが……。

「幻獣詞が見えちゃうね」

幻獣には身体の一部に痣がある。
その痣は幻獣自身の名を示す字(あざ)でもある。
ラディウスの字は両肩にあった。
それは先端の割れた卵に細い翼が生えたようなもので、卵の中には猫の瞳を思わせる紡錘型の模様がある。
色は均一して青い。

「ああ。幻獣詞は高位の召喚士なら読み取れてしまう。何か隠せるものがあればいいのだが」

「うーん。外套を羽織るわけにもいかないし……。他の服を用意してもらうとか……」

「まあそれは俺が考えておく。クルーエルは?」

「え?私?」

「ああ。なにかあって来たんだろう?」

「あ、そうか。あのね、服の着方がわからなくて」

「メイド呼ぼうか?」

ラディウスは部屋の隅にあるベルのついた紐を指した。

「あ」

その発想はなかった。
これも平民と王族の悲しい違いか。
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