時雨の奏でるレクイエム
オリビンと部屋を出ると、壁に背をもたれて待っていたラディウスと目が合った。

「あ……ごめん、待った?」

「いや。それにしても、似合うものだな」

「なにが?」

「いや、なんでもない」

クルーエルはラディウスの肩を見てほっと息をついた。
ラディウスの持っていた外套にデザインがよく似た上着を着ていた。
あれなら幻獣詞が見えたりしないだろうと思う。

「それでは案内させていただきます」

オリビンはそっと目を伏せて歩きだした。
二人はそれについていく。

「ねえ、ラディウス」

クルーエルはオリビンに聞かれないようにそっとラディウスに話しかけた。
ラディウスはそれを察したのか、声を出さずに視線だけで応える。

「どうして国王様はわざわざ一緒に食事を取ろうなんて思ったのかな」

「さあな。もしかしたら、他にも数人呼ばれているかも知れないが」

「そうだとすると……親睦を深めるため?」

「もしくは、なにかを思い出そうとするため、か」

「あ、そっか」

忘れてたが、王都の人達は皆ラディウスの存在を忘れている。
だけどラディウスの双子の兄、ディランはぼんやりと覚えていて、それをもどかしく感じている、らしい。
少し会っただけだから、本当にそうなのかはわからなかったけれど。
それに。

「ラディウス、眼帯してるんだね」

ラディウスは右目に眼帯をつけていた。

「ああ。机の上に置いてあった。まるで、誰かが、俺の右目が見えないことを知ってるみたいにな」

「あ……!」

「ああ、そうだ。先に言っておくか」

ラディウスは眼帯を撫で付けながら言った。

「王は、左目が見えない。有事以外は、いつも眼帯をつけていた」
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