時雨の奏でるレクイエム
オリビンに案内され、クルーエルとラディウスは自室に戻った。

クルーエルは服も着替えずにベッドに倒れこむ。

「今までで一番ふかふかだ……」

逆に眠れそうにない。
あんまり堅いのも嫌だが軟らかすぎるのも落ち着かない。

「うーん……そう考えること自体贅沢なのかな」

クルーエルはディランの言葉を思い出していた。
灰色。そう蔑まれたのは初めてではない。
クルーエルの瞳は昔、ノインの施した術によって青から灰色になった。
だから、普通の人にこの瞳の色はいない。
気味悪がられてそう言われたこともあった。
それを聞かなくなったのはいつからだろう。
聞こえなくなったのは。

クルーエルはベッドから上半身だけを腕の力で持ち上げ窓の外の月を見る。
黄金の満月がそこにはあった。
月は黄金に輝くが、月から降る雫の色は蒼い。
雫が落ちるとき、輝く色は銀と蒼だった。

「あ……」

クルーエルは思い出した。
アルミナの力で王国に飛ばされてすぐのこと。

「凍った月の雫の色か……」

ラディウスにとってそう見えるのなら、今この瞳の色は確かに月の雫の色なのだろう。
そう思うとなんだか誇らしくも恥ずかしい気分になってクルーエルはまたベッドに隠れるように倒れこんだ。
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