時雨の奏でるレクイエム
ラディウスは机の上でゆらゆらと波紋を残すハーブティーを見ていた。

「催眠効果か」

シオンの家で見たのは何もディランのことだけではない。
薄緑のお茶。
眠る人々。
それの示すものは。

「不味いな。もしかしたら近いうちに……」

考えこんで、はたとラディウスは我に返った。
なんで闇の幻獣王の召喚を阻止することになっているのか。
そもそも、自分の目的は別にあったはずなのに。
王家に復讐?
馬鹿馬鹿しい。
父も死んだ。
王都の人間は一人残らず自分のことを忘れているし、そもそも、恨みなんて最初から持っていなかった。
王家に執着はなかったのだろう。
ただ、逆恨みはしていたが。
何かを信じられずになっていたが。

「幻獣王に会いにいくこと」

行って、どうするんだ。
なんのために幻獣王に会いにいく?
もちろん幻獣となったからには幻獣王に会いに行って名前を貰わなければならない。
それがリリスであれ、ラディウスであれ。
名前は一つに統一しておくべきだった。
だが、幻獣になる前はどうだったろう。

「……あー。思い出した……」

生きる場所を探すためにか。
自分の居場所を決めるため。
幻獣王に会いにいくのは、目的じゃなくて手段の一つにすぎない。

「自分の生きる場所か……」

それは一体どこなのだろうか。
< 87 / 129 >

この作品をシェア

pagetop