時雨の奏でるレクイエム
「なん……だと。でまかせを……」

「あんたが召喚しようとしているのは闇の幻獣王だ」

「闇の?はっ!何を馬鹿なことを言い出すかと思えば」

「昨日記憶を一部戻されたことであんたには記憶の幻獣の魔力がわずかだが残存している。揺さぶりをかければ、何かを思い出しやすくなるだろうよ」

きぃぃん

金属のならす澄んだ音が聞こえた。
おそらく、ラディウスが剣を抜いたのだろう。

「幻獣王を召喚するつもりなら、俺を眠らせてからにしろ。俺はあんたを止めるだけだ」

「っく……!」

また金属音がした。
今度はディランが剣を抜いたようだ。

「やるしか、ないのか……!」

え?
クルーエルは不安になった。
まさかラディウスこんなとこで殺し合いするつもりなの?
クルーエルはどっと冷や汗をかいた。
無茶苦茶だ!
人がこんなたくさんいるのに。

「ああ。だが、ここでは剣を振り回すわけにはいかない」

「だが、背は見せられない」

「大丈夫だ。移動魔法があるからな」

クルーエルはぴんときて小声で幻獣詞の詠唱を始めた。
ラディウスは移動魔法なんか使えない。
でも、私の結界の力を応用すれば、二人の『位置』を変えることくらいなら出来るのだ。
結界が作動して、二人はここではないどこかへ移動したようだ。
クルーエルは起き上がり、そこでじっとたたずんで傍観していた人物と向き合った。

「ラディウスも決着をつけにいったし、私は貴女を止めなきゃいけない」

「クルーエル様」

「オリビン。鬼ごっこって知ってる?」

クルーエルは足元に展開した結界の反発力をばねにオリビンに飛び掛った。
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