時雨の奏でるレクイエム
オリビンの行動は迅速だった。
踵を返して逃げる。
メイドとして相当幼いころから城勤めしていたことは想像に難くないので、難しいかも、とクルーエルは思った。
細部まで城のことを知り尽くしているオリビンには土地勘がある。
対してクルーエルは昨日今日来たばかりの客人だ。
逃げやすく、追いかけにくい。
せいぜい、来た道に結界を置いていって一箇所に追い詰めるだけだ。
でもそれだとかなりの長期戦になるし、なにより、魔力は無限じゃないのだ。

「それでも……勝たなきゃ」

ばっと右手を挙げる。
袖から手のひらがむき出しにされ、指先が魔方陣をつむいでいく。

『くるくるくると廻るモノ。風斬り霞の道開き、君の詞に嘘はなく、ただ一つを目指し駆け抜ける』

魔方陣は手のひらよりも大きくなり回転を始める。
そして手のひらから魔方陣を切り離すとクルーエルはそれに飛び乗った。

「オリビンを追って!」

魔方陣は発光を続けながら移動を始める。
クルーエルは角を曲がっていったオリビンの背中を、見逃すものか、と睨んだ。
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