姫様と7人の王子様
始まりは突然
4月16日。転校初日・・・・・・。
エリザ学院からの転入生、華紅羅彩鈴は巨大な門の前に立っていた。朱い鉄門は彩鈴の身長の二倍はあるだろうか。倒れてきたら死にそうである。
その鉄門の横には、『重要文化財』と書いてある。
高価すぎて触れたくもない鉄門を通り抜けた彩鈴は、門の先にある桜並木の下を歩いていた。
延々と続く桜並木は終わりを知らない。
(まるで昔読んだ漢文の桃花源記の世界だわ)
あの時の花は桃だけれど、と彩鈴は心の中で自分にツッこむ。この花びら舞い散る並木道を過ぎれば、きっと桃源郷はある。ユートピアがあるだろう。
桜並木の途切れ目が見え、大きな校舎が見えた。
「うわぁ・・・すごい」
ギリシア彫刻のような素晴らしい景観を持った噴水。色とりどりの花・・・。まさに、ユートピア。
彩鈴が腕時計を見ると、まだ7時30分。学校側からは8時30分までに来てと言われているので、あと一時間ほど余裕の時間がある。
一時間の時間つぶしは容易かもしれないが、初めての学校、転校初日。転校初日というものは、大抵おとなしくしているのが人間の性質である。
横を見ると木の下にベンチが置いてある。
(まずは、あそこで時間を潰していよう・・・)
木陰にポツリと置いてあるそのベンチに腰をかける。
上には優しい木漏れ日。彩鈴は昨日の引越し準備もあり、疲れていたため、気づいたら寝てしまっていた。
―――――
「!」
彩鈴は慌てて飛び起きる。
(大変!寝てしまったわ!)
慌てて時計を見ると、8時。寝ていた時間は30分だけであった。しかし、春眠、暁を覚えずというように、寝ても寝ても眠い。
彩鈴は重くなった瞼を必死にあげようとしていた。
ふと、前を見ると、黒い革靴が見えた。
革靴を履いている人の顔を見る。その人は、黒い髪の毛に眼鏡、そして本を左手にもちジット彩鈴のことを見つめている。
(な・・・何・・・?)
彩鈴は不安に感じながらも、
「お、おはようございます」
と、声を絞り出した。
眼鏡の男の人は顔の表情を変えない。それどころか、ズカズカと彩鈴の前まで来て、仁王立ちの姿で立った。
「この際、そしてもう耐え切れないから言うけど」
眼鏡の男の人の目はとても冷たい。しかし、とても綺麗な顔だ。大抵の女子なら一発でノックアウトしてしまいそうな顔。だが、その形の整った唇から発せられた言葉は予想をはるかに超えるものだった。