姫様と7人の王子様
「出待ちとかやめてくれる?不法侵入で訴えたら、即逮捕だよ?わかったら、二度と来るな。この雌豚」
彩鈴はフリーズする。
「な・・・な・・・」
何よあんた!と彩鈴は声を出そうとしたが、あまりにも直球の罵詈雑言に返す言葉も見当たらない。
「いい加減にしてくれないか。他のファンも迷惑しているんだけど。早く帰れ、この雌豚が」
(ファン・・・?)
何を言っているかがわからない。彩鈴はこの男のファンでもないし、ファンになったつもりもない。
彩鈴はこらえきれず、ベンチから立ち上がり、男の胸ぐらを掴んだ。そして叫んだ。
「さっきからなによ!雌豚とかファンとか・・・。初対面の人に対して言っていいことと悪いことがあるわ!」
彩鈴が胸ぐらを掴んだ行為に驚いたのか、男は一瞬目を丸くしたがすぐに無表情に戻った。
「初対面じゃないだろ。お前はTVで俺のことを知っているだろ。俺が正しいことを言ったから言い返せないのか?言い返せないからってこういう行為に及ぶのは最低だぞこの雌豚」
彩鈴はこの男の言っている意味がわからない。
「なんなのあんた?!罵詈讒謗許すまじ!ていうか・・・あんた誰よ!!」
「え・・・?」
今度は男がフリーズした。
「最悪!転校初日から最悪だわ!ユートピアと一瞬でも思った自分が馬鹿みたい!校内で会わないことを祈るわ!さよなら!」
彩鈴は男を突き放し、校舎に駆けていった。
「おい、お前どこの高校だ。ここらへんじゃ見ない制服だな――――・・・」
あの男、狂っているわ!と心の中で毒づく彩鈴。
校舎へ向かって歩いていた時に後ろから何者かに声をかけられた。先程の男とは違う、少し高い声で。
「華紅羅・・・彩鈴さんですかね?」
振り返ると朝日に照らされ反射する白い白衣がたなびいていた。銀色の髪がキラキラと光る。
「あなたを待っていました。」
どこかの国のジェントルマンのようなお辞儀。白衣の男はスッと立ち上がると彩鈴のもとへ近づいて手を取り、そして跪いた。彩鈴はまた『雌豚』と言われないか、気が気でない。
「御藤学園へようこそ・・・」
白衣の男は彩鈴の右手にキスをした。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
彩鈴は声にならない悲鳴を上げた。白衣男は、さもこれが当たり前だと言わんばかりに微笑みながら立ち上がる。
「まずは保健室に来てください。私はこう見えても保健医なのです」
「こう見えてもって・・・どう見ても保健医だと思いますが・・・」
白衣を着てたら大抵そう思うだろうけど、と雪華は感じていた。
「ははは。よく生物担当に間違われるんですよ。雰囲気がカエルを解剖しているイメージがあるらしいです」
(確かに)
彩鈴は内心納得していた。