姫様と7人の王子様
保健室は外から入ることができた。勝手口のような場所から中に入る。この男、非常にレディーファーストである。保健室に入るときも、「どうぞ」と言い、彩鈴を先に入れた。
男が椅子を出してくれたので、その椅子に座る。男も椅子に座り、さて、といい話を始めた。
「私の名前は椿原要と申します。先ほども申しましたが、保健医をやらさせてもらっています」
「か、華紅羅彩鈴です。よろしくお願いします・・・」
彩鈴も続けて自己紹介をする。
「この学園について説明でもしましょうか。この学園について詳しく話は聞いていないのでしょう?」
彩鈴は御堂学園については全く知らない。元々他県であるこの高校についての知識など皆無だった。そして急に決定したこの転校。彩鈴は駆け足でここにやってきたのである。
「テレビでもよくこの学園は注目されていますからね。存じているとは思いますが・・・」
「知らないわ。テレビなんて全く見ないもの」
あっけらかんと彩鈴は答える。彩鈴にはテレビというものに興味がない。新聞は見るが政治面や経済面などだけで、エンタメ・芸能には一切興味がない。
特に流行りの俳優などにも興味も持たないし、まして曲など聞かない。
彩鈴は過去にピアノを習っていた。その為、クラシック系統の曲はよく聞くが、Jポップといったものは、別世界の次元に同等なのである。
これといって好きな俳優はいないし、テレビ越しに見ながらキャーキャーと言うのもあまりすきではない。
彩鈴は冷静沈着すぎる思考のため、他人とは別の考え方をしてしまうのだ。彩鈴にとってテレビはテレビ。その中で微笑んでいる彼らはただの映像にすぎない。光の三原則、赤・緑・青で全てが作られた、偽りの姿なのだと。
彩鈴の答えを聞いた要は困ったように微笑んだ。
「はは。今時テレビを見ないなんて、珍しいですね。天然記念物のような人です。まあ、それなら話は早いのですがね」
朝日がベッドのフェンスに光の潤いを与える。反射したそれが彩鈴はとても眩しかった。
「テレビを見ないなら、この学園を知らなくても当然でしょうね。説明しますと、この御堂学園は芸能関係にも非常に理解が高く、そのためたくさんの芸能人が通っているのです。俳優にモデル、アイドルや芸人まで多種多彩な顔ぶれなんですよ」
要はニコニコしながら彩鈴に語る。右手でメガネを直しつつ、目にかかった前髪をその手で払う。
「しかし、あなたは彼らを知らないですからね。よかった、落ち着いた学園生活が続きます。女性は憧れの対象が目の前に来ると、つい発狂しまいがちですから。あ、いえ、悪口ではなく、そういう行動こそ人間の本質なのでしょうか」
フォローしながら要は話す。
(なんてできてる紳士なのかしら)
彩鈴は心の中で拍手を送った。
「まあ、あなたなら大丈夫でしょう。御堂学園に来たこと、きっとこれは私とあなたの運命・・・」
クスっと笑いながら、彩鈴の髪を手に取り、キスする要。彩鈴は無言でその髪を引っ張る。要はポカンとした顔だったが、すぐにいつもの余裕ありげな顔に戻る。
「あなたでしたら、この男子校の中でも生きていけますよ。おや、もう時間・・・朝のSHRに遅れてしまいます。ではいってらっしゃい」
彩鈴はお礼を言い、保健室を出ようとした。廊下に出たときに、ふと要の発言を思い出す。
『あなたでしたら、この男子校の中でも生きていけますよ・・・』
慌てて要のいる保健室へリターンする彩鈴。
「椿原先生ッ?!だ、男子校とはッッッ?!?!」
「御堂学園は男子校ですよ?あ、ちなみにあなたの教室は2―Jですからね。それから、これからは私のこと、要先生って呼んでくださいね」
「いやいや、あなたの呼び名は大事じゃないから!」
「早く行かないと転校初日から遅刻ですよー?学園内は広いから遅刻しますよ?」
遅刻はいけない。アリスは下唇を噛み締め、二年生の階へと向かう。
2―Jと書かれた札を見つける。その前には担任であろう教員が立っていた。
「待ってたよ。華紅羅彩鈴さんだよね?」
「そ、そうです!先生、あの、ここって男子校なんですか?!」
「?そうだよ?いやー、君を入れてみたいなんて、学園長も変わってるなー。あはは」
(笑い事じゃないわよ!!)
彩鈴の心の中は逆鱗状態だった。
「よし、じゃあSHR始めるぞ。俺が入ってって言ったら来いよ」
半ば強引にSHRは開かれたのである。