姫様と7人の王子様
曇りガラス越しでもわかる、ザワつき始めた教室の中。全ては、『転校生が来た』と先生が発言したからである。
始業式より一週間遅い転校。おそらく教室の中で彩鈴の印象は『よほどの大事件をおこした不良』か『ビッグアイドル』の二者択一となっているだろう。
彩鈴はどちらにも当てはまらない自分を少々恥じた。
「では、転校生。入ってきなさい」
先生の声と同時に教室の騒ぎがピークに達した。彩鈴は深呼吸をし、ドアを勢いよく開けた。
そして教壇の所に立つ。先ほどまで騒いでいた教室が一気に静まり返った。
(ご・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!男子校ですもんね!女子来たら無言になりますよね!)
彩鈴は心の中で何度も謝罪の言葉を繰り返す。
「え?女子?」
「ここ男子校じゃねえの?」
「いや、落ち着け。いま流行りの男の娘かもしれない」
(紛れもなく女子ですけど!)
コホン、と咳払いをし、先生が話す。
「あ~・・・見ての通り、女子だ。けして、男の娘ではないぞ。では自己紹介をしてもらおう。黒板に名前書いて」
チョークを手渡される。『華紅羅 彩鈴』と控えめな字で書き、クラスのほうへ向く。
「か、華紅羅彩鈴です。隣の県の、エリザ学院から転校してきました。あの・・・なんかすみません」
これといった自己紹介文など考えていなかった自分を激しく責める。
「先生ー。彼女は芸能人ですか?」
クラスの中から質問が飛び出した。
「いや、一般人だ。校長先生自らが入れたんだ」
「ふーん」
先生の説明を聞いて、納得したのか。
「華紅羅は・・・じゃあその席に座れ。じゃあ皆、なかよくやるように」
彩鈴は指定された席に着く。荷物を横に置いて、ふと右の席を見る。
「「あ」」
彩鈴とその横に座っている男子が目を合わせ、同じタイミングで言葉を発した。それはそれは、とても憎たらしい今朝の・・・・・・
「ナルシスト男!」
彩鈴が声を荒げるとクラスの視線がこちらに集中した。
「お?彩鈴もブラロズのファンか?お前も霧人のことが好‐・・・「朝から人のこと雌豚呼ばわりして、自分のファンがうんだらかんだら言って!安心しなさい、思ってるほどアンタのファンなんていないに決まってるわ」
先生の言葉を遮り、彩鈴は今朝の鬱憤をすべてこの男にぶつける。
「ファンではなさそうだな・・・」
「先生!当たり前です!誰がこんな人・・・」
「・・・うるさいな。鵞鳥か」
「んなッ?!」
雌豚雌豚と言ったら、今度は鵞鳥か。しかし雌豚よりかは幾分いい。
「ああ、そうかそうか。俺のことを知らないっていう演技か?そうして俺に近づくって作戦か?見え見えなんだよバーカ」
(こんのやろォォォ・・・・・・)
湧き上がる怒りを抑える彩鈴。しかし、奴の見えないところで左手の握りこぶしには血管が浮き上がっていた。
「ではSHR終了」
先生は一言いい、教室から出て行った。クラスの興味津々の視線が突き刺さる。
「そこの彼女♪」
後ろから声をかけられる。振り向くとまっ金金に染められた眩しい髪が見えた。
「彩鈴ちゃん?可愛い名前だね。ま、びっっくりしたかい?世界の視線を集めるトップモデル『砂原ミトス』を目の前にすると・・・心が疼いちゃうかい?」
顎に手を添えられ、クイッと持ち上げられる。なんだこいつ、と思った。
「お、『佐原晋太郎』くんが彩鈴ちゃん口説いてるー」
横からピョンと出てきた小さめの男の子が砂原ミトスを見て笑いながら指差した。
「ちょッ、おまッ・・!俺の本名をなぜ知ってッ・・・言うな!」
砂原ミトスこと佐原晋太郎は彩鈴の顎から手を離し小さい男の子の口を塞いだ。
「もごもご・・・ぷはっ。ミトスくんは可愛い子にすぐ声をかけちゃうんだからー。白夜がいたら、バトル開始だね」
「ああ、白夜がいねえから今のうちにな。ま、これからもよろしくな。彩鈴ちゃん♪」
ミトスは投げキッスをしてきたが、彩鈴はそれを叩き落としたのだった。