姫様と7人の王子様
始業式が終わって何日かしているからなのか、授業は7時間もあった。
教科書やノートは手配済みだったからよかった。これでまだ教科書類を持っていなかったら・・・この男に借りるハメになる。
昼休みになり、後ろの席の男子が声をかけてきた。振り返るととても柔かな・・・王子様のような座っていた。
「よかったら一緒に食べない?いつもこのメンバーで食べてるからさ」
王子は指で周辺を囲った。円の中に含まれているのは、王子と・・・ナルシスト男。そして私の左のなんか高貴そうな人、右前の小さい男の子、左前の外人・・・?ハーフかな?
また私の左後ろの席の黒髪の人、そして空席。
「ね?この学校初めてだし、一緒に食べよー!」
この男子にはミトスのような下心は無さそうだ。純真な笑みをこちらに向けてくる。食べようかと思ったが、右の男子の強烈な眼差しが彩鈴の答えを阻む。
ナルシスト男は『来るなよ雌豚』と眼力で彩鈴を威嚇している。
「・・・いえ、いいわ。お誘いありがとう」
彩鈴はそういい、そっと席を立つ。王子は不安そうな顔をしたが、彩鈴は振り切ってクラスから出た。
(でも・・・お昼ご飯どうしよー・・・)
彩鈴は困惑した。弁当など持っていない。クラスに戻ればお金はあるが食堂の場所もわからない。しかし、彩鈴はあの男のいるところに戻りたくないという念が強かった。
(あの男・・・思い返すだけでも腹が立つわ!)
ブラブラと学校内でも探検するかと思っていた時だった。みんな紅一点の彩鈴をまじまじと見つめてくる。すると後ろから声をかけられた。
「おや、お一人ですか?お食事でもいかがです?」
この声は・・・彩鈴は思い出す。朝の光に照らされる銀色の髪の―――・・・
「要先生ですか?」
「そうです。大正解です」
振り返ると、今度は昼間の太陽に照らされた要がいた。しかもにこやかに。
「保健室で食べませんか?まだクラスに慣れていないのでしょう?徐々に慣らしていきましょう」
その手には風呂敷に包まれた弁当箱らしき四角いものが入っていた。
「・・・・・・どうも。ではご一緒させていただきます」
彩鈴は要の後を追い、保健室へと向かった。またもやこの男レディーファーストである。
保健室の椅子を借り、おもむろに風呂敷を開く。
「・・・これは一体?」
「え?重箱弁当ですよ?」
要の前には当たり前のように重箱が置かれている。しかし、彩鈴にとってその光景は異常だ。
おせち料理のような伊勢海老がドン!と主人公ヅラして真ん中を陣取っている。
彩鈴は『いただきます』といい、黒豆を頬張る。これは、明らかにおせちだ。4月に食べるものではない。
「あの・・・要先生はいつもこんなご大層なものを食べてるんですか?」
「ああ、これは特別です。ホッシーに作らせたんですよ。きっとあなたが来ると思っていましたからね」
「ほ、ホッシー・・・?」
「それにしてもすごいご馳走ですね!伊勢海老、殻剥きますね」
「ありがとうございます・・・」
要は箸を器用に使い、海老の身を剥いた。ご立派なおせちは一人では食べきれないほど多い。田作りを頬張る。やはりうまい。
「まだ四時間だけですが・・・、御堂学園はいかがですか?もう慣れましたか?気に入ってくだされば幸いです」
要はニコニコと彩鈴に向かって笑う。彩鈴は箸を置き、要の方に向き直った。
「・・・気にいるわけないじゃないのぉぉぉ!!!」
いきなり叫びだした彩鈴に、一瞬要は目を丸くしたが、すぐにいつもの調子に戻る。