彼女と私と彼と。
私はノートパソコンを取り出し、メールの確認を始めた。
一通りメールを開いてから、ガラスに当たり付ける雨を傍観し、自分のブログに、

“最悪のいちにち”

と言うタイトルで、仕事帰りの楽しくなるはずだろうだった恋人とのデートで、いきなり恋人に別れを告げられたことを愚痴愚痴と書き、電車に乗ったはいいものの、リビングの電球が切れていて、デートの時に買う予定だったことを忘れ、電車を降りたら買おうと思った電気屋さんが休みだったこと、突然の雨の中、駄目もとで走った電気屋も閉まってしまったこと云々を書きノートパソコンを閉じた。

フ、と自分の帰る路地を見たとき、1人の男性が眼に入った。
ここからはだと良く見えないが、手には缶ジュースらしきものをにぎっている様だった。
こんな雨の中、傘もささず、こんなに近い雨よけのショップがあるのに入ろうとしないその男性を、一体何を考えているのだろうと窓越しに暫く傍観していると、男性の姿は消えた。

気になった異性の姿も消え、時計を確認すると、既に24時を過ぎ自分自身の身体の冷たさも限界に達し、雨が小雨になったのを確認して外へ出た。

通る道には誰も居ないはずだったことを思い返してから曲がった。出会うとしてもたちの悪い酔っ払いならまだいい。
最近は物騒だから、暴漢や通り魔の類でなければ何でも良かった。
何もない、普通が一番。
そう願いつつ、路地を曲がった。

そして、目に入って来た光景に後ずさりをした。
先ほどの男性が倒れていた。

どうしようかと考えた。

このまま、何も見なかったことにして進むこともできるし、来た道を引き返し、別の道から帰ることもできた。

それでも、私の手は、恐る恐る倒れている男性の顔に手をあててみた。

生きている。

良かった。

と変な安堵をし、再び触れると、その熱さに驚いた。
物凄い高熱だ。
救急車を呼んだ方が良いと考え、携帯を手にすると、

「やめてくれ」

力の無い手で触れられた。

「でも、あなた凄く熱があるんですよ?!」

「金も保険証も無いからいいんだ。このままで…」

そう言って、目を瞑られてしまった。

私は考え、考え抜いた結果。

「立って下さい。5分だけ辛抱して」
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