彼女と私と彼と。
『金も保険証も無いからいいんだ。このままで…』

こんなことを聞いて、この雨の中見捨てたりして、死なれでもしたら目覚めが悪い。挙句の果てに警察沙汰にでもなるかも知れない。
警察や救急車を呼んだとしても同様の面倒事が後に控えているのは明らかで、どの選択をしても面倒事になるじゃないか。

「なんて1日なのよ!!」

整理できない心を叫びながら、半分、八つ当たりをすかの如く乱暴にこの男性を運んだ。
どうにか自分のマンションのロビーに運び入れ、横の管理室を叩いた。

「どうしました?」

と、愛想の良い警備の岩国さんが顔を覗かせた。

「岩国さん、限界。手伝って下さい」

肩で息をしながら、片手で岩国さんの顔を下から覗きこむようお願いした。

「小林さん?!一体何事ですか!?」

岩国さんの声に、

「この人、凄く熱があるの。でも病院には行けないって。私の部屋まで連れて来て!お願い!!」

岩国さんに両手を合わせ彼を任せ、自分の部屋へ急いで向い、鍵を開けるなり、バスタブに向かいお湯をはった。

暫くすると、

ピンポーン。

と、玄関のチャイムが鳴り、岩国さんだと言うことを確認してから、ドアを開けた。

「連れて来ましたけど…」

岩国さんは、自分の肩に乗せた男について何か言いたそうに、私を見ていたけれど、

「こんな時間にご迷惑かけて申し訳ありません。お話ししておきたいことがあります。それと、ついでとは言っては何ですが、その人、お風呂に突っ込んで来てれませんか?実は、私、着替えたくて…」

そう告げると、岩国さんは、

「しかし、小林さん。どなたですか?この方は。一応、安全上お知り合い以外の方は…」

警備員と言う立場上、岩国さんが心配されることは当然のことだった。

「大丈夫です。知り合いです」
(二言くらい交わした)

「…そうですか?」

不審がる岩国さんを、

「ええ。散らかってますが、お願いします」

と中へ招いた。


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