【短】生徒会の秘蜜〜非日常的な日常〜
「なぁ、來美?」
「ん、どうかしましたか?」
たどり着いた教室の扉の前。
扉を開くためにかけた手をそのままに、那智くんはあたしを見つめながら形のいい唇で名前を呼んだ。
紫がかった髪と同色の瞳を見つめ返すと、目尻をほのかに赤く染めた那智くんが見えて。
可愛いなぁ…なんて男子に思うのは、失礼かもしれないけど。
「もし教室に誰もいなかったりしたら、このままどっかに行かねぇ?」
「えっ…?あたしと、ですか?」
「あ〜、その…來美が嫌ならムリにとは言わないけど」
目尻をさらに赤くした那智くんは、先ほどよりも乱暴に髪を掻いた。
照れてるのかな?…なんて、顔を覗き込めばプイッと視線を逸らされた。
シーン…と、廊下と同じく静まり返っている教室内。
結局、教室まで誰ともすれ違うことは無くて…正直、教室に誰かいるとも思えない。
那智くんからの誘いは思いがけないものだったけれど……
「いや、なんかじゃ…ないですよ」
「……へ?」
イヤなんかじゃない。
こんなふうにあたしを遊びに誘ってくれる人は今までいなくて、イヤどころか嬉しくも感じている。
「どこに行きましょうか、那智くん?」
驚きのせいか惚けた表情をした那智くんに、口元を綻ばせながら微笑んで訊ねてみる。
少しの間惚けたままだった那智くんは、しばらくしてから照れたようにはにかんで……
「行きたいとこは來美が決めろよ。俺は…來美となら、どこでもいいから」
「え……?」
徐々に那智くんの言葉の語尾が小さくなっていって、よく聞こえない。
「ッ……なんでもねぇ!とりあえず、教室入るぞ!」
「あ、うん。……?」
小首を傾げながら那智くんを見返せば語気強くそう言われ、聞こえなかった言葉は隠れて見えないまま。
あたしは聞こえなかったその言葉が、妙に気になってしまった――――……