【短】生徒会の秘蜜〜非日常的な日常〜


離した後のソラさんがとるであろう行動は目に見えていて、だから尚更離すわけにはいかなくて。

ソラさんの腰にまわした腕に、更に力を籠めて抱きつく。


「ッ、ソラさん!」


「おや、騒がしいですね」


あたしのことなんて強行突破しそうな勢いのソラさんを、諫めるように呼んだあたしの声に被せられた聞き覚えのある声。

うずめていた顔を声がしたほうに向けると、ソラさんと同じくスーツを身に纏った時雨くんが野次馬という名の人混みから姿を現した。


「…時雨、くん」


小さな声で助けを求めるように名を呼ぶと、時雨くんは人混みの渦中にいるのがあたし達であることに気付いたらしい。

あたし達を一瞥した時雨くんは困ったように笑んで、暫し考えた後、人差し指を自身の唇に添えた。

静かに、ということなのかな?


「お嬢様、ダンスをご一緒していただけませんか?」


首を傾げながら時雨くんを視界に捉えていると、クルリと方向転換した時雨くんが美少女にそっと手を差し出した。

その行動はまさに紳士がするように綺麗で、馴れているんだろうか、なんて考えが頭を過る。


「えっ…?」


「ダメでしょうか…?」


時雨くんが現れたことに対するものか、突然の誘いに対するものか、時雨くんの背の向こう側から驚きの声が聞こえた。


暫く繰り返されていた時雨くんと美少女の会話は、あまりにも小さな声だったせいで聞き取れなかったけど。

去りぎわに見えた時雨くんの掌に添えるようにのせられた華奢な手と、悦びに彩られた美少女の横顔、微かにあたし達に向かって笑んだ時雨くんを見て助けられたことを悟った。


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