【短】生徒会の秘蜜〜非日常的な日常〜
声がしたほうを振り返ってみると、たくさんの人々のせいで不鮮明な視界の中に、明らかにこちらを見つめる瞳があることに気付いた。
あたしと同じくらいの年頃なのだろうか、こちらを見遣るその人は、端麗な顔に淡い微笑を浮かべている見知らぬ青年で。
「だれ、ですか…?」
「ん?俺のこと、分かんない?」
「…ッ、ごめんなさい」
ふわりと柔らかく浮かべられた微笑みに、素直に憶えていませんとも言えず、己の唇から零れ落ちたのは在り来りな謝罪の言葉。
基本的に目立つような行動はとっていないあたしの名前を知っているということは、同じ学園の生徒か個人的な知り合いなのだろうか。
こんなに綺麗な顔をした人を簡単に忘れたりするだろうか、という疑問が頭を占めるも憶えていないのは真実で。
彼を全く憶えていないと云う事に申し訳なくなり、尻すぼみに自然と声のトーンが下がっていくのが自分で分かった。
「やっぱり可愛いね、キミは」
「え…ッ、きゃあ!」
突然呟かれた会話の流れに逆らった彼の言葉に反射的に顔を上げると、手首に緩くまとわりくつ熱い掌の感触。
次の瞬間には、ぐいっ…と手首を引かれ、身体が傾く。
絶え間なく人が行き交うこの場所で立ち止まっているということで、周りの人の邪魔になるであろうことは容易く想像出来たはずなのに。
抱きかかえるように腰に回された腕、必要以上に密着した身体に驚いて初対面である青年を見上げると愉悦を含んだ笑みが見えて、肌が粟立つ感覚が全身を駆け巡った。